富裕層、修正申告相次ぐ 課税逃れ対策の「国外財産調書」 パナマ文書で厳しい目

日本経済新聞 朝刊 社会1(30ページ)
2016/7/24 3:30

 パナマ文書問題などをきっかけに日本国内でも富裕層の租税回避に厳しい目が向けられている。2014年から5千万円を超える海外資産には「国外財産調書」の提出が義務付けられ、富裕層の修正申告も相次ぐ。ただ海外に日本の調査権は直接は及ばないため、国税当局は日本人が海外に保有する資産の全体像を把握しきれていない。

5千万円を超える海外資産について提出が義務付けられている「国外財産調書」
 「実はスイスに数億円の株などがある。国外財産調書のことは知っていたが、これまで資産を申告せず調書を提出してなかった」。東京都内の税理士(57)の事務所で、相談に訪れた50代の男性経営者が神妙な面持ちで切り出した。

 この税理士によると、経営者は20年以上前から海外で資産を運用し、規模は年々拡大。最近では海外の資産分だけで年間100万円前後の所得があったという。相談後、経営者はすぐに修正申告の手続きを取った。

 大手税理士法人の山田&パートナーズによると、同法人に寄せられる海外資産に関連する相談や修正申告の件数は、国外財産調書の導入前は年間10件程度だったが、導入後の14年以降は年間50件程度まで急増している。辻・本郷税理士法人も「海外資産に関連した相談件数は2~3割増えている」という。

 野村総合研究所の調査では、2013年時点で純金融資産(国内外の保有資産の合計から負債を差し引いた値)が1億円以上の富裕層は約101万世帯と推計されている。

 一方、国外財産調書を提出している人は約8千人(15年提出分)。個人の税務に詳しい税理士は「富裕層の厚みから考えれば、提出義務を果たしていない人の方が多いのではないか」と指摘する。「海外財産なら課税の網から逃れられる」との意識を持つ人も少なくないとみられる。別の税理士は「『無申告の海外資産を保有している』と相談に来た人に修正申告を勧めたら、二度と来なかったケースもあった」と話す。

 国税庁は実際にどれくらいの人が5千万円を超える財産を海外に持っているのか正確には把握していない。調査・徴収権は海外には及ばず、金融機関の口座を直接、調べることなどはできない。同庁幹部は「送金や入金記録などから海外資産の保有状況を地道に調べるしかない」と話す。

 各国とは租税条約による情報交換もしているが、別の同庁幹部は「税収の確保は国家権力そのもの。当事国の徴税権と対立し、簡単には協力してもらえないケースもある」と明かす。

 海外資産を使った課税逃れが横行すれば、「富の再分配」という税制の機能を損ないかねない。青山学院大学の三木義一学長(租税法)は「金融取引に対して課税するなど、富裕層に一定の負担を求める新たな制度も検討すべきだ」と指摘している。

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