マイナンバー可能性と課題(下)

マイナンバー可能性と課題(下)
個人情報保護に万全期せ 新保史生 慶応義塾大学教授
2015/4/17 3:30 朝刊
 社会保障と税の共通番号(マイナンバー)制度が2016年1月に始まる。企業にとっては個人番号の通知開始が半年後に迫り、重い腰を上げざるを得ないというのが正直なところだろう。しかし、何をすべきなのか十分に理解されていないことが対応の遅れを招いている。

 マイナンバー制度には4つの目的がある。(1)番号を利用した効率的な行政事務の処理と確実かつ迅速な情報の授受(2)公正な給付と負担の確保を図ること(3)手続きの簡素化と負担軽減(4)個人番号その他の特定個人情報を適正かつ安全に取り扱うこと――である。
 番号を利用する行政手続きの対象範囲は、社会保障、税、災害対策の3分野に限られる。12桁の数字の個人番号は、悉皆(しっかい)性(住民票を有する全員に付番)、唯一無二性(1人につき1つの番号で重複のないように付番)、「民―民―官」の関係で流通させて利用可能な視認性(見える番号)という性質をもつ。
 02年に住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)が稼働し、国民に特定可能な住民票コードが割り振られている。住民票コードは住基ネットで本人確認をする情報としてのみ利用できる。厳格な利用制限により告知要求やデータベースの作成も禁止され、他人に知らせることを前提としない「見えない番号」である点が、「見える番号」であるマイナンバーとは異なる。
 1980年代に「国民総背番号制」という批判が出て以来、国家による番号制度構築にあたっては、人権保障とりわけ個人のプライバシーの権利保障が課題となってきた。制度の検討過程において示された懸念は、国家管理(一元管理)、個人情報の追跡・突合、不正利用による財産その他の被害発生の3つである。
 国家管理の懸念には、「管理による懸念」(監視社会化や過度の利用への歯止めは大丈夫か)、「管理への懸念」(適切な情報利用と管理がなされるのか)、「管理のための懸念」(違法・不正な取り扱いへの法執行は適切に実施されるのか)がある。そこで第三者の立場で監視する機関として特定個人情報保護委員会が設置され、マイナンバー法における個人情報保護対策が講じられた。
 同法が定める対策としては8つ挙げられる(表参照)。
 第1に、法律の規定によるものを除き、特定個人情報(個人番号付きの個人情報)の収集・保管、特定個人情報ファイルの作成を禁止している。特定個人情報の提供や個人番号の提供要求も、法律が定める手続きに限定し、個人情報番号提供時の本人確認を義務づけている。見える番号が広く利用されることに伴う追跡・突合やID盗用などの不正利用を防ぐためである。
 第2に、情報の安全管理を義務づけている。
 第3に、番号単独での本人確認はできない。盗用や漏洩などの被害を受けた場合は番号の変更が認められる。
 第4に、情報提供ネットワークシステムを利用して情報を提供する際の連携キーとしてマイナンバーを用いず、個人情報の一元管理ができない仕組みを構築している。
 第5に、情報提供などの記録を確認できる仕組み(マイナポータル)により、行政機関による自分の特定個人情報の取り扱いを確認できるほか、行政から通知される「おしらせ情報」をパソコンやスマートフォン(スマホ)などから確認できるようになる。
 第6に、14年1月1日より運営が開始された特定個人情報保護委員会は、マイナンバーの適切な取り扱いを監督するだけでなく、国家による番号利用が人権を侵害しないことを監視するという重要な役割を担う第三者機関である。今国会で審議中の個人情報保護法改正により、16年1月には個人情報保護委員会として個人情報保護制度全般の監督機関になる予定である。
 第7に、行政機関や地方自治体などは、プライバシー侵害を予防するための事前評価手続きの実施が義務づけられている。
 第8に、個人番号の違法・不正な取り扱いに対しては罰則が強化されている。
 以下では、事業者、個人、行政それぞれに求められる対応について取り上げる。
 事業者にとっては、今年末までの準備期間に必要な対策と制度の運用開始後の対応に分かれる。まずは、内閣官房の社会保障・税番号制度のウェブサイトを確認することである。特定個人情報保護委員会、国税庁、厚生労働省の関連サイトにもアクセスし、マイナンバー制度に関する資料や指針を参照し制度を理解すべきだろう。
 マイナンバー対応の会計ソフトやセキュリティーのパッケージの広告をみて購入するだけでは対応できない。個人番号の取り扱いについて、取得(本人・扶養家族)、利用・提供(記入・提出)、保管、開示、廃棄の各段階において手続き実施の是非を確認しなければならない。
 そのうえで、(1)マイナンバーを適正に扱うための社内規定整備(2)システム整備や改修(人事、給料、会計システムなど)(3)特定個人情報の安全管理措置の検討(4)教育・研修の実施――の4つの準備を進めることになる。
 運用開始後は、法律に規定された社会保障、税および災害対策に関する事務に限定して利用することが求められる。さらに、それらの手続き書類の作成事務に限定してマイナンバーの提供を要求するとともに、それ以外の目的での提供要求、提供、収集制限に留意してマイナンバーを取り扱わなければならない。
 次に個人は、個人番号の利用範囲が社会保障・税・災害対策に限定されていることと、誰に番号を提供するのかについて理解する必要がある。
 個人番号を提供するのは、個人番号を使って行政事務を処理する行政機関、地方自治体、独立行政法人などの「個人番号利用事務実施者」、個人番号を記載した源泉徴収票や支払調書などを提出する民間事業者(個人番号関係事務実施者)に限られる。
 通知カードが届いてから勤務先に自分と家族の個人番号を提出し、16年1月には個人番号カードの交付が始まる。通知カードを紛失せずに保管し、個人番号カードの受領時に設定する4桁の数字と6桁以上の英数字の組み合わせの2種類のパスワードも忘れてはならない。個人番号カードの提示の仕方にも要注意だ。個人番号カードを身分証として利用する際、裏面に記載される番号を見せたりコピーをとらせたりしてはいけない。
 最後に行政には、制度の普及啓発により不安や懸念を払拭する努力を継続して実施することが求められる。官民双方による多額の費用と労力に見合う利便性を実感できる番号制度の充実に向けた施策を検討することも必要である。行政サービスのワンストップ化やアクセス手段の多様化など、電子政府推進の取り組みを加速させてはどうか。
 マイナンバー法の改正により、医療分野における利用範囲拡充や預貯金口座への任意での適用が予定されている。個人番号カードを公的サービスや資格証明のためのカードと一体化して利用することや、金融、医療・介護・健康、戸籍、旅券、自動車登録など公共性の高い分野での利用範囲拡大も検討されている。
 番号制度は使い方によっては重大な人権侵害がもたらされるリスクがあることも忘れてはならない。それを防ぐため、マイナンバーと個人情報保護制度を監督する「個人情報保護委員会」が適切に機能することが不可欠である。広範囲な制度の執行や高度に専門的な知識も要求される問題に適切に対処できる組織体制の整備が課題となっている。
<ポイント>○マイナンバーは「見える番号」なのが特徴
○国家管理の懸念払拭のために委員会設置
○行政は利便性実感できるよう施策検討を
 しんぽ・ふみお 70年生まれ。法政大卒、駒沢大博士(法学)。専門は憲法、情報法

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