マイナンバー 可能性と課題(上)

マイナンバー 可能性と課題(上)
サービス提供、官民連携で 須藤修 東京大学教授
2015/4/15 3:30 朝刊
 社会保障と税の共通番号(マイナンバー)は、国民と日本に中長期居住する外国籍の人がもつ12桁の番号であり、社会保障・税・災害対策の分野で個人の情報を適切かつ効率的に管理するために活用される。関連法が2013年5月に成立したのを受け、15年10月に番号の通知が始まり、16年1月からマイナンバーが導入される予定である。


 マイナンバー制度は高齢化経済構造などの大きな変化の中で、社会保障と税を一体的にとらえ、より正確な所得、医療福祉費用負担などの情報に基づいて適正・公正に課税して、国民が社会保障給付を適切に受けられるための情報基盤として導入される。これにより、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報ということを確認するための基盤が構築される。
 第1に、行政手続きが正確で迅速になり、災害時には被災者台帳作成に活用され、罹災(りさい)証明交付など行政支援が迅速になる。第2に、現状では年金や福祉などの申請に際して様々な書類を取り寄せ提出しなければならないが、こうした提出書類が削減される。第3に、所得把握の正確性を向上させるとともに、年金や社会保障の確実な給付に寄与する。
 マイナンバーは、個人情報保護の観点から慎重な取り扱いが求められる。
 市町村長は法定受託事務として、マイナンバーを指定し、通知カードにより本人に通知する。本人は通知カードと引き換えに、個人番号カードを受け取れる。番号カードの券面には顔写真、氏名、生年月日、現住所、個人番号が記載される。ICチップは公的個人認証用の公開鍵暗号を収納しており、ネットワークを用いた本人確認が可能になる。
 個人番号カードについては行政事務処理における本人確認の簡易な手段として利用を促進するとともに、行政事務以外の事務処理でも積極的に活用するよう促している。
 また市町村の機関などは条例により、総務相が定める安全基準に従って、一定の事項を個人番号カードに記録して利用できる。地方自治体が条例を定めれば、ICチップの空き領域に様々なサービスのアプリケーションソフト(応用ソフト)を搭載してもよいということである。こうした搭載ソフトが社会保障と税制度に類するサービスの一環であれば、地域経済振興政策の役割も果たす。地方自治体の創意工夫が強く求められる。
 例えば、電子マネーやクレジットカード機能をチップに搭載し、行政手続き料金や診療費の支払い、さらには健康管理サービスや観光事業と提携して地元事業の活性化策に活用することもあるだろう。
 一方、マイナンバーの利用範囲は法律により厳格に規定されている。当面は税制と社会保障制度に関する手続き、災害時の行政支援に限定されている。まず社会保障制度に関しては、(1)年金の資格取得・確認および給付を受ける場合(2)雇用保険などの資格取得・確認および給付を受ける場合(3)医療保険などの保険料徴収などの医療保険者における手続き(4)福祉分野の給付(5)生活保護の実施など低所得者対策の事務――などである。
 さらに、税務当局に提出する確定申告書、届出書、調書などに個人番号を記載することで、当局が効率的で公正な処理をするための内部事務に利用できる。災害対策への活用としては、被災者生活再建支援金の支給に関する事務に活用することで、効率的・迅速に被災者を支援できる。
 マイナンバー付き個人情報は「特定個人情報」と呼ばれる。行政機関などは特定個人情報について、番号法の規定によるものを除き、収集・保管、特定個人情報ファイルの作成を禁止されている。特定個人情報を保有する各機関が個人データを特定するための符号を用いる際、公表されることのない符号を使い、サイバーアタックへの耐久力を強化することになっている。
 個人情報保護のための技術的措置、制度的措置、体制整備は、政府、地方自治体のほか、特定個人情報を取り扱う企業にかなりの負担を強いることになる。しかし、個人情報保護と情報セキュリティーの確保を考えると、そうした負担は避けられないだろう。
 筆者も構成員の一人を務めるIT総合戦略本部の新戦略推進専門調査会マイナンバー等分科会は、マイナンバー制度の拡充を検討している。個人がパソコン、スマートフォン、CATVから情報提供などの記録を確認できる「マイポータル」を開設する予定だ。
 マイポータルのワンストップサービス、プッシュ型情報提供サービスなどの行政機能の質の向上を考えると、官民連携が不可欠である。そこでマイナンバー等分科会では、官民情報連携を実現する「マイポータル/マイガバメント」(仮称)を検討している。
 引っ越し手続きに電子私書箱を用いたワンストップサービスも提供する予定である(図参照)。共通項目を事前入力することで、選択された届け出先に引っ越し手続きの情報を一斉送信できる。
 こうしたポータルを用いた質の高い官民連携サービスを提供するには、制度のあり方についても抜本的な検討がなされなければならない。
 具体的には、(1)結婚・死亡などのライフイベントに関する手続き、パスポートの発行、代理権の確認などに関連する戸籍などに関する事務(2)在外邦人によるマイナンバー関連サービス利用、旅券や邦人保護などに関する事務(3)金融機関による顧客の名寄せ、本人確認および口座名義人の特定・現況確認に関する事務(4)医療・介護・健康情報の管理および医療情報の蓄積・分析などに関する事務(5)自動車登録に関する官民連携による事務など――である。
 これらの5つの事務は、マイナンバー制度を利用した取り組みに近接しているうえ、公共性が高く、国・地方・民間の情報連携などによりさらなるメリットが期待される。
 とくに医療・介護・健康管理について言及すると、25年には、団塊の世代がすべて後期高齢者になる超高齢社会が到来する。在宅疾病管理、予防医療、質の高い地域包括ケアの実現が求められる。そのためには、医療・介護・健康情報の管理および医療情報の蓄積・分析(いわゆるビッグデータの分析)が必要であり、在宅医療、介護、行政のデータ連携基盤が必要になる。
 「マイポータル/マイガバメント」(仮称)はその基盤の一翼を担える可能性がある。今後は医療機関、介護事業者、行政などの関係者の間で慎重な検討のうえ、マイナンバー制度のあり方を構想しなければならないだろう。
 マイナンバー等分科会と関係省庁は、個人情報保護、情報セキュリティーに配慮しながら、想定される利用のあり方、期待される効果、制度・運用面の課題などについて検討を進めている。これらの取り組みは経済成長とりわけ雇用に寄与するとともに、地域社会の発展に貢献するものでなくてはならない。
〈ポイント〉
○地域経済振興へ自治体の創意工夫が課題
○行政機能の質の向上へ官民連携が不可欠
○医療・介護・健康情報の管理・分析が重要に
 すどう・おさむ 55年生まれ。東京大博士。専門は社会情報学

 

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