遺言執行者って何する人?

遺言執行者って何する人?
相続手続き円滑に進める 弁護士など第三者の活用も
2015/5/27 15:30 夕刊
 「遺産を相続人らにどのように分けるか」。この難しい問題に被相続人自らが答えを出すのが「遺言」だ。法律上は最優先で扱われるが、被相続人の最終意思である遺言も相続人の出方次第では実現に時間がかかる可能性がある。そこで注目されるのが遺言の内容を実現する役目の「遺言執行者」だ。何をしてくれるのだろうか。

 相続手続きは大変な作業だ
  「これで子供らも納得してくれるだろう」。神奈川県に住む川村忠通さん(仮名、85)は万一に備えて遺言に取り組み始めた。妻は既に死亡。相続人は長男(55)、長女(48)、次女(45)の3人。遺産は家(土地と建物で相続税評価額は計4500万円)と預貯金(3000万円)の合計7500万円だ。
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 忠通さんの構想はこうだ。まず長男に家を相続させ、長男の嫁にも500万円の預貯金を遺贈(遺言による贈与)する。家には長男一家が同居しているほか長男の嫁にも介護などの面で世話になったからだ。長女と次女は嫁ぎ先が比較的裕福で持ち家もあるので預貯金を1250万円ずつ相続させようと思っている。
 ただ懸念は残る。長男一家の相続分が全部で5000万円と遺産の66%に達する点だ。しかも相続人ではない長男の嫁に遺贈する内容では長女、次女が納得しない可能性がある。長女や次女の遺留分(最低限の相続分)は遺産の6分の1(1250万円)。その分の預貯金を相続させることで配慮したつもりだが、一抹の不安はなくはない。
 遺言は法律的に大きな効果がある。遺言が有効な場合、相続人が遺言の内容と違う遺産分割をするには、相続人全員が合意しなければならない。遺言で被相続人が指定した方法(各相続人の相続分の指定など)が一部の相続人にとって不公平だったとしても原則、遺言が優先する。
 川村家の場合、長女、次女が難色を示しても長男が受け入れることで遺言を実現する必要がある。「遺留分を侵害されていないので長女らは法律的には対抗手段はない」(弁護士の上柳敏郎氏)
 もっとも遺言は自動的に実現しない。相続人が内容に従って協力するからこそ実現するわけで「一人でも難色を示せば遺言の実現は滞る」(司法書士の船橋幹男氏)。
 遺産の名義変更で問題になる可能性がある。金融機関の中には「争族」に巻き込まれるのを恐れ「相続人全員が合意したことを示す書類を求めるところもある」(船橋氏)からだ。川村家の場合、長男の嫁が自分への遺贈を記した遺言を基に銀行で預金の名義変更を求めてもすんなりと手続きが進むか不透明だ。
 それを払拭するにはどうすればいいだろう。ここで注目されるのが「遺言執行者」(表A)だ。遺言執行者は遺言で書かれた内容を実現する人。多くは遺言で指定された人が就任する。遺言で必ず指定する必要はないが「いるとメリットがある場合が少なくない」(上柳氏)。
 まず相続手続きが円滑に進む。遺言執行者は相続人の中で反対者がいても「名義変更の手続きを執行者の権限でできる」(船橋氏)からだ。
 相続手続きは財産の種類に応じて通常いろいろな添付書類が必要だ(表B)。相続人がそれぞれ手続きをする場合は各人が添付書類を用意する必要があり意外に大変だ。その点、遺言執行者にやってもらえば手間が省ける。
 「遺贈を受ける人(受遺者)が相続人と疎遠でも遺言執行者がいると便利」(船橋氏)だ。例えば遺言者の前妻の子供や認知した子供に遺産の一部を遺贈する遺言の場合。受遺者と相続人との面識がない場合が多く、遺言執行者がいる方が円滑に進む。
 もっとも「遺言執行者を置いたことでかえって紛争を引き起こす場合がある」(上柳氏)。例えば遺言で遺産の多くを取得する相続人が遺言執行者の場合だ。「他の相続人が不審に思い、遺言の信ぴょう性までも疑うケースも少なくない」(船橋氏)
 遺言を書く人は増え、公証人が作る「公正証書遺言」の件数は昨年初めて10万件台になった。ただ「遺言執行者の認知度はあまり高くない」(弁護士の北野俊光氏)。
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 だが、せっかく遺言を書くなら「自分のケースでは遺言執行者を置くほうがいいのか、いなくても大丈夫なのかについて考える必要がある」(上柳氏)だろう。遺言執行者を必ず指定しなければいけない場合もある。例えば遺言で子供の認知をしたり被相続人を虐待する相続人を遺言で廃除したりする場合だ。遺言に遺言執行者が定められていない場合は相続人らの申し立てで家庭裁判所が選任する。
 遺言執行者が基本的に必要ないケースは遺言で法定相続分と異なる相続分を指定する場合などだ。もっともこのケースでは遺言の書き方に工夫が必要。いずれにしても遺言者は弁護士、司法書士など専門家に相談するほうがいい。
 遺言執行者を指定する場合、誰がいいか。相続人でも構わないが、それ自体がもめ事の原因になりそうなら弁護士、司法書士ら利害関係のない第三者がよい。
 信託銀行も遺言信託というサービスで執行サービスをしている。この場合、遺言執行者は信託銀行自身が務める。
 弁護士など第三者に依頼する場合は遺言執行の報酬が必要。報酬は遺産の一定割合を請求されることが多いので金額を確認し依頼する必要がある。
(編集委員 後藤直久)

 

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