(Update:H21.5.27)
欠損金の繰戻し還付を請求すると、必ず税務調査が行われるといわれています。
確かに国税庁は、一度納税されたものを還付請求があったからといって、黙って還付するほど甘くはないでしょう。調査の密度の違いはあるものの、何らかの形で還付請求者と接触することは間違いないと思われます。
また、繰戻し還付を請求をした場合の税務調査は、通常の税務調査とは少し異なることが予想されるので、特に前期(還付事業年度)までの見直しが必要となります。
説例に基づいて、税務調査の態様と法人税額の変化を検証します。
説例 | 還付事業年度 | 欠損事業年度 |
2期通算 法人税額 |
||
(甲)増減所得 |
調査後所得 (税額) |
(乙)増減所得 |
調査後所得 (税額) |
||
【例1】欠損事業年度が赤字になったので繰戻し還付を請求した |
4,000 (120) |
△2,000 (△60) |
60 (0) |
||
【例2】税務調査において(乙)増減所得+1,000が認められた |
4,000 (120) |
+1,000 |
△1,000 (△30) |
90 (+30) |
|
【例3】税務調査において(乙)増減所得+3,000が認められた |
4,000 (120) |
+3,000 |
1,000 (30) |
150 (+90) |
|
【例4】税務調査において(甲)増減所得+2,000、(乙)増減所得△2,000が認められた | +2,000 |
6,000 (180) |
△2,000 |
△4,000 (△60) |
120 (+60) |
【例5】税務調査において(甲)増減所得+6,000が認められた | +6,000 |
10,000 (300) |
△2,000 (△60) |
240 (+180) |
(注)税率は便宜上30%で計算してある。
●例1 欠損事業年度が赤字になったので繰戻し還付を請求した。
前年は4,000万円の黒字で120万円を納税したが、当期は2,000万円の赤字となったので、欠損金の繰戻し還付を請求した。
還付請求額は、120万円×2,000÷4,000=60万円となった。
●例2 税務調査において(乙)増減所得+1,000が認められた。
欠損金の繰戻し還付を請求したところ、税務調査が行われ欠損事業年度の所得が1,000万円増加することとなり、繰戻し還付額が120万円×1,000÷4,000=30万円となった。
2期通算税額が90万円となり例1より30万円増加することとなった。
●例3 税務調査において(乙)増減所得+3,000が認められた。
税務調査が行われ欠損事業年度の所得が3,000万円増加して、調査後の所得金額が1,000万円の黒字となり欠損金の繰戻し還付額が認められなった。
2期通算税額が150万円となり例1より90万円増加することとなった。
●例4 税務調査において(甲)増減所得+2,000、(乙)増減所得△2,000が認められた。
税務調査が行われ還付事業年度の所得が2,000万円増加し、同時に欠損事業年度の所得が2,000万円減少することとなった。
還付事業年度の税額が30万円増加して180万円となり、欠損金の繰戻し還付額は180万円×2,000÷6,000=60万円となった。
2期通算税額が120万円となり例1より60万円増加することとなった。
通常の税務調査においては、 前 期: 売上計上漏れ・・・・・売掛金 1,000 / 売上 1,000 最終期: 売上認容・・・・・・・・・・・売上1,000 / 売掛金 1,000 といった意味のない更正は、留保税額が変動して看過できないなどの特別なことがない限り行われませんでした。 しかし、欠損金の繰戻し還付を行った場合には、還付事業年度の所得を増加させ欠損事業年度の所得を減少させる、いわゆる期ズレの更正でも税額が増加するということを税務職員が気がついて、還付事業年度の期ズレがどうのこうのと言わないようにお祈りしたいものです。 |
●例5 税務調査において(甲)増減所得+6,000が認められた。
税務調査が行われ還付事業年度の所得が6,000万円増加して税額が300万円となり、欠損金の繰戻し還付額は300万円×2,000÷10,000=60万円となった。
2期通算税額が240万円となり例1より180万円増加することとなった。
当初の還付請求額が60万円の場合には、その後の調査等により還付事業年度や欠損事業年度の所得金額が増減しても、還付額が当初請求した60万円を超えることはなさそうです。 還付事業年度の期ズレも更正の対象になると想定されますが、還付事業年度が既に税務調査の洗礼を受けている場合には、当該事業年度については手をつけないことになりそうです。 |